『ミリオンダラー・ベイビー』は

見終わったあとも、どう受け止めたらいいのやら
整理がつかず、長いことあれこれ考えていた。
後悔のない人生とはどんなものか。
あのときこうしておけば……という運命の悪戯から、
人は逃れられないのか。
人はどこまで、他人を信じられるのか。


決して涙を誘う物語ではないし、さわやかなカタルシスもない。
後半のドライな展開には唖然とさせられ、
暗澹たる気分になる。
デート映画かと思って見に行くと、最悪だろう。
見ているときの面白さよりもむしろ、見た後のさまざまな思いに
心をかき乱される映画だ。
そういう意味では、傑作というのとはちょっと違う。


そして残った答えは、他人同士が、血のつながった親子以上の
絆を持ちえたという、ほのかな希望であり安らぎにも似た
感情だった。
これは、なにかに似ている――と思って考えてみたら、
たどりついたのは小津の『東京物語』だった。
これも血のつながらない2人(笠智衆原節子)が、
最後に心の絆を確認する、感動的な結末。
義理の父娘の間の、ささやかな心のふれあいが、
いわば広い意味での人間愛、人類愛にまで昇華されていたから
こそ、世界的にも高く評価されたのだと思う。
私にとってMDBは、イーストウッド版・21世紀の
東京物語』なのだった。