日米のすれ違い

黒澤明VSハリウッド」(田草川弘)を読む。
トラ・トラ・トラ!」をめぐる製作秘話の数々で、ページを
めくるのももどかしいほど面白かった。
撮影がうまくいかず、だんだんご乱心(?)していく黒澤と、
現場の混乱がスリリングに描かれ、息をもつかせない。
結局、契約内容を黒澤が把握しておらず、側近のプロデューサー
も正確に教えなかったことが、混乱につながったという。
黒澤自身は、映画全体をまとめる「総監督」と思っていたが、
アメリカ側からすると、日本側の撮影ユニットの責任者に過ぎず、
黒澤プロダクションは単なる「下請け」だったということだ。


黒澤の書いたオリジナルシナリオと絵コンテも紹介されており、
そのイメージの豊かさに圧倒される。とくに
オープニングの、淵田少佐らのなにげない会話から、カメラが
せり上がって、80隻におよぶ連合艦隊の威容がワイドスクリーン
に現れるところなど、想像しただけで鳥肌が立つ。
もっとも、CGもなかった当時、これを実際に撮るのはカナーリ
大変そうだし、実現しなかった可能性が高い。


日本では映画は監督のものだが、アメリカでは製作者のもの、
という認識の違いも興味深い。
かりに黒澤がこの映画を撮ったとしても、本来の黒澤らしさが
画面に表現できていたかどうか、疑問は残る。
ちなみに製作のダリル・F・ザナックは編集の名手でもあり、
荒野の決闘」の、余韻のあるラストシーンは、彼があとで
撮影してくっつけたものだ、という話にもビックリした。


「やっぱり英語って必要なんだナー」と読み終わって思ったが、
黒澤のような局面は来るはずもないことにすぐ気付き、
やっぱり勉強することはない、と思い直したw