不器用ですから

高倉健が亡くなった。年末には大物がくるなあ……。
健さんには、ある種の思い入れというか感慨がある。
学生時代は学園紛争たけなわで、健さんやくざ映画
ヒーローとして人気絶頂であり、反体制・反権力のシンボル
として崇められていた。みな健さんのヤクザ映画を見ては、
ラストのなぐりこみ場面に快哉を叫んだものだ。
かれこれ45年前……。池袋文芸坐で「昭和残侠伝」などの
5本立てオールナイトをいつも一緒に見ていた親友も、今はない。


新幹線大爆破」では、不況で追い詰められた中小企業の社長と
いう主人公の苦悩が、やくざ映画が当たらなくなって迷いの
見える健さん自身の姿に重なった。それは当時会社員だった自分の
鬱屈にも重なる部分があり、人ごととは思えなかった。
勝手ながら、健さんは同時代人であると思ってしまうゆえんだ。
結果として、演技は良かったのに興行的には報われず、将来が
見通せない健さんの低迷には、人知れず胸が痛んだ。


その意味で、「幸福の黄色いハンカチ」は、起死回生の
逆転ホームランのようであり、演技者としての新しい地位を得た
健さんを、ひそかに祝福したものだ。
「駅」の、人生には自分ではどうにもならないことがあるという
苦渋を噛みしめる表情が、ワタシにとって健さんのピークだった。


映画雑誌「ムービーマガジン」のインタビューに、ジーンズ上下の
カッコいいファッションで現れ、こんなオサレな人だったのかと
驚かせた健さん(「シンプルライフ」のCМに起用されたのは、
このせいだと思う)。千葉真一小林稔侍など後輩の俳優が
語るとき涙ぐんでしまうほど、慕われていた健さん
絶対なれないけれども、あんな男になりたい、といつも
思わせてくれた健さん
人間って、やっぱり死ぬんだね、健さん。あなたのような人でも。
さようなら、ありがとう。


それにしても、同じ日に訃報の届いた納谷六朗が、
気の毒ではあります……(^_^;)。