発見

ツタヤの旧作レンタルDVDで、久しぶりに小津の「晩春」を見る。
何度も見ているが、何度見ても面白い。


今回再認識したのは、原節子の美しさだった。
父親の再婚話を聞いたときの娘(原節子)の硬直した表情と態度が、ドキッとするほど怖い。そして美しい。
また能楽堂で居合わせた、再婚相手とおぼしき女性(三宅邦子)と父親に何度も目をやる娘の目の動きと表情の変化が、
これまたスペクタクルともいえるほどの見ものとなっている。
もはや娘というより「女」全開の、原の表情に惹きつけられる。これが「晩春」の最大のハイライトだ。


そして能を見たあと、食事でもするかと誘う父親を振り切って、どんどん先を歩いて行く娘。
こういう場合、Uターンするとか角を曲がって足早に去っていく……てな演出になるだろうな、と思っていたら、みごとに裏切られた。
娘は先を歩いて行くが、父親と平行線を保ったままで、父親をおいてけぼりにするわけでもないのだ。
それは、父親に対するすねた甘えであり、父親に手をさしのべてほしい、と語っているようにも思える。
そして、この二人を後方からとらえたショットは、常に二人がきちんと並んで見える、小津独特の撮り方だとわかる。


ちなみにこの後読んだ「絢爛たる影絵」(高橋治著)によると、このシーンのことを、
「凡庸な監督なら、原に来た道を取って返さすだろう。あるいは曲がることのできる道を選ぶか、走り去らすかを考えるに違いない」とあったので、赤面&爆笑してしまった(^_^;)
小津は奥が深い……と、またまた再認識したのでありました。


ちなみに「絢爛たる影絵」は、数ある映画本のなかでもベスト・オブ・ベストというべき面白さだ。
小津の映画と同様、何度読んでも新しい発見がある。
1985年刊だが、久しぶりに本棚から引っ張り出したら、すっかり日焼けして
ほとんどのページが茶色に焦げているのにビックリ。
スキャンしとくかなあ……。