組み合わせ思考

アメリカ本土を爆撃した男」(倉田耕一著)を読む。
1942年9月、零式小型水偵に搭乗して伊25潜水艦から飛び立ち、オレゴン州に2度にわたる爆撃を加えたパイロットの人生を描く。
これは、アメリカ合衆国本土に対する史上唯一の航空機による爆撃であるとか。
作戦としては森林火事を狙ったのだが、雨の降った後ということもあって、ほとんど戦果はなく、すぐ鎮火されたという。
しかし、この空襲が当時のアメリカ人に与えたインパクトは、相当なものがあったらしい。


当然ながら、その爆撃の前後の、緊迫感みなぎる描写を期待したが、意外とあっさり済ませている。
むしろ、主人公のパイロット・藤田信雄と、アメリカの現地の人々との戦後の交流を描いた作品といえる。
この人が戦後、ヒーローとして招かれ、現地の人々から大歓迎を受けたというニュースは、よく覚えている。
幸い死者は出なかったものの、自分ちの国土を空襲した男を招待してヒーローとして祭り上げる……というアメリカ人のヒーロー観というか、寛容さに、とまどった記憶がある。
藤田氏が、戦犯として裁かれることも想定して、切腹のためにと、自宅に代々伝わる日本刀を持っていった……というのも、頷ける話だ。
藤田氏はその刀を当地に寄贈し、その後お礼に高校生を日本に招待するなど、日米の親善と交流に貢献したという。


映画ファンとしては、つい映画化された場合を想像してしまう題材ではある。
中心となるのは、やはり出撃〜爆撃シーンだろう。しかし、実際の戦果がしょぼいので、かなり地味な映画になってしまいそうなことは、すぐに想像がつく。
面白くしようとすると、主人公の水偵が迎撃してきた戦闘機と戦うとか、母艦が水偵の帰還時刻に、米駆逐艦に発見されて猛攻撃を受ける……なんて盛り上げ方をつい考えてしまう。
そうすると、どんどんハリウッド的荒唐無稽に陥って、まったく事実から離れてしまう。
あちらで映画化の話はあったようだが、実際に製作されなかったのは、そういうジレンマのせいだろう。やはり、映画的ではあるが、ネタとしては小ぶりなんだな〜、残念ながら。


ところで、潜水艦に飛行機を載せて使うというのは、当時としては斬新な発想というべきだろう。
違うものを組み合わせて新たな価値を生み出すというところが、いかにも日本人らしい。ラジカセみたいだ(古っ)。
かつて「丸」を愛読していた身としては、ついつい夢想してしまう。
この発想をさらに突き詰めた伊400+晴嵐で米国本土攻撃、あるいはパナマ運河を爆撃していれば……と、仮想戦記の世界にイメージは限りなく膨らんでしまうのでありました(^_^;)