ああ名作

ツタヤのシニア無料レンタルで、「二十四の瞳」(昭和29年・木下恵介監督)を見る。言わずと知れた名作だ。

小豆島の教師と生徒の、昭和前期から戦中戦後にかけての18年間の交流を描いている。

前半は貧困の、後半は戦争の悲惨さが胸を打つ。

貧乏ゆえに、子どもたちは修学旅行にも行けなかったり、大阪に働きに出されたり、借金で家をとられて一家で故郷を離れたり。当時はみな貧乏だったんだなあ……としみじみ。

 

後半は徴兵されて、何人もの生徒が戦死する。先生の夫も戦死し、小さな娘も戦後間もなく柿の木から落ちて死んでしまう。お腹が空いたので柿をとろうと柿の木に登った……という理由が、いかにも当時の世相を表して悲しい。

 

高峰秀子の教師は、ただ泣くことしかできない。でもその優しさが胸を打つ。

後半は高峰秀子が泣いて泣いて泣きまくる、この涙の波状攻撃はすごい。おかげでこっちまで涙腺崩壊……(^_^;)

いま見てもけっこう泣けるのだから、公開当時の日本人の心をどれだけ揺さぶったか、想像に難くない。

 

この年のキネマ旬報ベストテンは、1位・二十四の瞳3位・七人の侍である。

私は長いこと、この順位が不思議で仕方がなかった。

世界に通用するアクション映画であり、その後も世界歴代ベストランキングの上位にたびたび選ばれる「七人の侍」が、なぜ3位なのか?

今回これを見て、やっとその理由が腑に落ちた。

戦争の記憶もまだ生々しい昭和29年の日本人にとっては、「二十四の瞳」の方が、ひとごとではなく胸に迫る切実な映画だったのだ。

七人の侍」は、野武士と戦うために侍を雇うという設定が、日米安保という生臭い現実を想起させたのかも。

 

それにしても、この映画の高峰秀子は素敵だ。

当時の軍国主義の風潮には反発するものの、とりわけ反骨精神が強いわけでも、目立ったキャラの人でもない。ただただ生徒を愛し、一緒に泣く。このあたりの普通さかげんが、日本人好みなのだろう。

この後、日本人の考える理想の教師像になったのではないだろうか?

 

もっとも、いただけないところも。「仰げば尊し」が劇中とエンディングに流れるのだが、なんだか教師の恩を押し付けているような気がしないでもないような……(^_^;)

ちなみに、日本語字幕を出して見たので気がついたのだが、「思えばいととしこの年月」の「いととし」は、「いと疾(と)し」だと知った(^_^;)

ずっと「愛しい」のことだと思ってた……orz

ついでながら、セリフの「アカ」が、字幕では「反戦家」になっていた。これもどうかと思うがな~w