東京物語

「『東京物語』と小津安二郎」(梶村啓二)を読む。
東京物語」は一昨年、世界の映画監督による投票で、
歴代第一位に選ばれたという。それを受けて書かれたようだが、
多彩な角度からの分析は鋭く、読み応えがある。
「時間という王こそがこの作品の真の主人公なのかもしれない」と
いう見方が印象的だ。


ワタシ的にいちばんジンと来るのは、笠智衆
「まあ欲をいえばきりぁなぁが、わしらはええ方じゃよ」と
いうセリフだ。マジメに働きつつも、「足る」を知って背伸びせず、
現状にそこそこ満足し、飄々として生きる日本人の姿勢だ。
生きるとは、何かを少しずつ諦めていくことではないか、と
いう深い思索もうかがえる。
たとえようもなく懐かしい感じがするのは、まったく同じような
ことを親もよく言っていたし、周囲の人々からも聞いた
ことがあるからだ。ある意味、戦後の日本人を象徴するような
セリフではないだろうか。
これだけでも、「東京物語」はすごいと思った。そして、
そうした日本人の感性が世界で理解された、というのが誇らしい。


ワタシも、何事につけこのセリフを心のなかで復唱することが
よくある。
金がなくて欲しいものが買えないときなどに、とくに有効だ(^_^;)。