あるつもり

「この世は落語」(中野翠)の巻末対談で、中野サンはこう語る。


……落語の魅力のひとつに、貧乏とのつきあい方を教えてくれる、と
いうのがありますね。お酒と卵焼きのかわりに、お茶とたくあんで
花見に繰り出す『長屋の花見』とか、鍋一つない部屋の壁に
絵を描いて、家財道具に囲まれて暮らす“つもり”になる
『だくだく』などなど、貧乏を「風流」という美意識にまで
高めている(笑)。
こんな文化は世界でも珍しいのではないでしょうか。


このことで思い出されるのは、『逝きし世の面影』(渡辺京二著)と
いう本だ。江戸から明治にかけて来日した欧米人の、日本の印象を
まとめた大著だが、そのなかである人が、驚きをこめて
こう語っている。
「人々はたいしてお金もなさそうなのに、いつもニコニコ楽しそうに
笑って暮らしている。この国には、貧しい人はいても貧困はないのだ」と。
まさに、落語に描かれた庶民の精神性そのままではないか。


しかし壁に絵を描いて、「あるつもり」になるとは、なかなかいい
イデアではないか?
ワタシもさっそく、裏庭のガラス窓に、新型マツダ・ロードスター
写真を貼っておくか(^_^;)