逆説の巨匠

「つかこうへい正伝」(長谷川康夫著)を読む。
才能豊かだが、わがままで小心でいい加減、しかしけっこう
面倒見のいい面もあったり……と、つきあいにくそうな
多面性を持つつかこうへい。
その近くにいた長谷川康夫による、つか芝居(1968〜82年)の活動記録だ。


独特の口立てによる稽古で、徐々に芝居を作り上げていくプロセスは、
じつにスリリングで面白い。
現場ではいきなり怒りだしたり罵倒したりと、暴君そのもの。
しかし役者はだれも文句をいわずに従ったという。それだけの面白さ、
魔力が彼の芝居にはあったということだろう。


つかの芝居はだいたい見ている。読み進みながら、「熱海殺人事件」、
「ストリッパー物語」、「蒲田行進曲」などで紀伊国屋ホールを
連日満員にした当時の熱気が、しみじみ思い出された。
ダウンタウン・ブギウギバンドのライブを演出したこともあったな。
ああ懐かしい。
なにしろ、ふだん芝居なんか見そうもない若い男女がどっと
押し寄せたのだから(ワタシもそのひとり)、一種の社会現象といえた。


この本は、演劇に魅せられたひとりの男(著者)の青春譜としても面白い。
芝居にのめりこみ、つかにふりまわされ、理不尽な目に遭うこと数知れずだが、「蒲田行進曲」の銀ちゃんとヤスのように、決して離れられない。
芝居となんとかは3日やったらやめられない……ということがよくわかる。


そういえば、「熱海殺人事件」は、紀伊国屋ホールで録音したカセットが
うちのどこかにあるはずだが……。
今ならひょっとして値打ちモノ?(^_^;)