海を見ていた午後?

「海も暮れきる」(吉村昭著)読了。

自由律俳句で知られる尾崎放哉の最期の日々を描いた小説。

東大を出て生命保険会社に入ったのに、会社員生活に適応できず、退職。酒浸りになり、離婚して寺男などしながら小豆島にたどり着き、病死した。享年41。

 

生活能力ゼロで酒癖が悪く、困るとなんでも人を頼ろうとする、破格のキャラが面白い。とりわけ、金に困ると知人や俳句仲間にすぐ借金の手紙を書くところなど、マメすぎて笑える。なんのためらいも迷いもなく書くのだ。すごい自己チュー。周囲にはさぞ煙たがられてたんだろうなあ。

そのくせ、春になればお遍路さんが来てお金を置いていくからそれに期待しようとか、さらにそういう人たちの手紙の代筆をして金を稼ごうとか、妙に楽観的で打算的なところもある。はたで見ているぶんには面白いが、おつきあいするには困るタイプだ。

そういえば「孤独の俳句」で、種田山頭火のことを「あれで愛嬌があれば寅さん」と、金子兜太が評していた。放哉も、その意味でなかなか魅力的なキャラではある。

 

ちなみにタイトルの「海も暮れきる」という句は最後まで出てこない。青空文庫を調べたら、「障子あけて置く海も暮れきる」とあった。病床に臥せってもはや動けず、海を眺めるくらいしか楽しみもない……ということか。

 

まあとにかく、性格やら生き方やら死に方やら、いろいろ身につまされるところの多い小説でありました(^_^;)