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「小津ごのみ」(中野翠)を読む。
小津映画を、ファッションとか着物の柄とか小物とか、
これまであまりなかった視点からつついている点が斬新。
もちろん俳優やカメラやセリフにもふれ、
著者ならではの歯切れのいい突っ込みで読ませる。


なかでも白眉は、「東京物語」のラスト近く、原節子笠智衆
会話の場面だ。
「私、嘘をついているんです。なにかを待っているんです」というセリフを、
かつて「絢爛たる影絵」(高橋治)では、セックスの欲望を
抑えきれなくなっているから……と、ずいぶん生臭い解釈で
捉えていて、中野はそれに強い違和感を抱いたという。
中野はいう。「あの場面を若い戦争未亡人の性の悶えとして見るのは、
あまりにも話をせせこましく、小さくするものではないか?」と。
まさしくそう思う。「絢爛たる影絵」は、映画本のなかでも3本の指に
入るくらい面白い本だが、そこだけ画竜点睛を欠くのだ。
なんでも深目読みし、性的に解釈するのもどうかなと思う。
中野の解釈というか印象と同じ思いをワタシも長年抱いていたので、
なんだか胸がすっきりした。


ちなみに「秋日和」を、「世界的に見てもあんまり例のない
『おじさまごっこ』映画」と書いているのには、思わず爆笑(^^;)。
久々に読み応えのある映画本であり、小津本てことで◎。