阿久悠

カール・ゴッチにベルイマン小田実にアントニオー二に
阿久悠……と、いろんな人の訃報が続く。


阿久悠といえば、野球でいうと生涯最多安打、生涯最高打率、
最高出塁率、最多ホームラン数、最多オールスター出場……なんて
記録づくめの選手、という感じである。
もっとも、5000曲も書いた人だけに、ひょっとして三振も
多いかも知れないが(^^;)。
それにしても、あらゆるジャンルを書き分ける力量には
同時代人として感心したものだ。
ピンクレディの曲などがそうだが、代理店にいただけに、
マーケティング手法を意識して活用した初めての作詞家では
ないだろうか。
かといえば、森田公一の「下宿屋」「乳母車」なんてジミーな
曲もリアリティがあって、巧いなあと感心させられる。


岩崎宏美のデビューからずっと書いていたが、あの世代の
気持ちを書けるというのも大したものだと思った(とくに
「思秋期」)。
ちなみに金井美恵子が彼女の歌を称して「ジャリの発情ソング」と
うまいこと言っていたが(^^;)、これはある意味、
阿久悠の一面を言い表していると思う。
彼は自立する女や多感な少女は描いたが、
成熟した女の恐いまでの性(さが)とか怨念は書かなかった。
女好きで、女に溺れていく様をそのまま書く、と
いうある種の破滅型作家とはちがって自制心があり、あくまで
自分を見失うことがない。
基本的には明るいポジティブな人だったのだろう。
だから、彼の詞はいつも、巧い広告コピーという風に読める。
なにか「艶」とか「色気」には欠けるところがある。
それが唯一、物足りなさというか突っ込みどころと言えば言える。
もっとも、あれだけ巧いコピーをコンスタントに書ける人は
いないのも事実だが。


いわゆる歌謡曲がすたれてさびしい時代だが、その終焉を
象徴するような彼の死であった(……と、週刊誌風に
まとめてみマスタw)。